オールドスクールヴィジュアル名盤解放地帯 #3「黒夢 - 亡骸を…」

クラシックな名盤をレビューしていく連載コラム「オールドスクールヴィジュアル名盤解放地帯」。 今回は、黒夢が1993年にリリースしたアルバム「亡骸を…」をレビューする。

収録曲は、M01「UNDER」 M02「終幕の時」 M03「DANCE 2 GARNET」 M04「讃美歌」M05「十字架との戯れ」 M06「MISERY」 M07「if」 M08「JESUS」 M09「親愛なるDEATH MASK」 M10「亡骸を」の全10曲。自主レーベルLa†Missからリリースされた。

黒夢は、前身バンドGARNETの清春/人時/鋭葵とGERACEEの臣によって1991年に結成された。

DEAD END/ASYLUM/ZOA/G-Schmitt/Sadie Sads/ガスタンクなどをフェイバリットに挙げる清春と人時、44MAGNUM/D'ERLANGERなどをフェイバリットに挙げる臣。一見、この相反するかのように見える互いの要素は化学反応を起こし、他に類を見ないダークかつハードなサウンドとグロテスクな世界観を特徴とする黒夢独自のスタイルを生み出した。

当時の主流に迎合する事を嫌ったこの「よりダークでよりコア」な彼らのスタイルは、ヴィジュアル系シーンに絶大なインパクトを与え、"名古屋系"と"コテ系"という2大派生ジャンルへと発展していく。

王道を塗り替え、瞬く間にスターダムにのぼりつめた黒夢。そんな彼らが「中絶」「生きていた中絶児」のヒット、オムニバス「EMERGENCY EXPRESS '93」への参加に続き、満を持してリリースしたフルアルバムが本作「亡骸を...」である。

伝説の首吊りパフォーマンスや、過激な作品タイトル。80年代インディーズシーンの系譜を受け継ぐ危うい雰囲気を纏っていた黒夢だが、本作「亡骸を...」ではそういった当時のパブリックイメージから一歩踏み出し、新たな境地を見せ始める。

本作では初期のハードな側面はやや影を潜め、清春が持つ天性の声質とメロディーセンスを活かした楽曲が半数を占めている。またグロテスクな世界観も洗練されはじめ、「迷える百合達」で完成させるオリエンタルかつデカダンな黒夢へ変貌していく過程を存分に堪能する事ができる。言わば、その後のメジャーデビュー作「迷える百合達」へ繋がる作品と言えるだろう。

当時のライブオープニングSEである不気味なオルゴールの音色から、M1「UNDER...」で本作の幕が上がる。前作からの流れを汲む強烈な2ビートが印象的だ。いや、ここではあえて2ビートではなく "ツタツタ"と呼ぶべきであろう。ちなみに本作のドラムは、クレジットでは匿名となっているが、一時在籍するex.THE STAR CLUBのHIROが担当している。そしてこの曲に込められた意味を、清春は当時のインタビューで「時の流れとともに外見や表現方法が変わっても底辺<根底>に流れるものは変わらない、変わってしまってはおかしい、そういう事を歌っています。」と語っている。常にシーンの主流へ対するカウンターであり続け、スタイルを変えても反逆精神を持ち続けた黒夢。「UNDER...」は、そういった黒夢のアティチュードを体現した曲となっているのだ。現にインディーズ期の代表曲であり、ファンクラブ名を冠すほど重要なポジションにあった曲である。

M2「終幕の時」M4「讃美歌」M6「MISERY」M7「if」では、救いようのないほどに冷たく残酷な暗黒美旋律が鳴り響く。後のインタビューで、本作リリース前に東芝EMIとの契約を済ませており、M6「MISERY」のようなミドルテンポで美しいメロディーをもつ曲を求められた事を明かしている。

M3「DANCE 2 GARNET」M5「十字架との戯れ」M8「JESUS 」で魅せる臣のサディスティカルなギターと人時のうねり踊るベースが、リスナーのボルテージを上げる。そこに重なる清春の独自性が高いビブラートやヒステリックな唱法が、退廃美をより色濃くする。そのボーカルだが、スケジュールの都合により2日間で録り終えたというから驚きだ。所謂"王道"に寄り添ったアプローチも見受けられるが、決して安易なものになっていない。それは、彼らが根底に持つ精神とバランス感覚のなせる技であろう。

「生きていた中絶児」から再録されたM9「親愛なるDEATHMASK」は"神の遺産"とも呼ぶべき曲だ。耳を突き刺すような残虐でノイジーなサウンド、叩きつけられる狂気の世界、性急な"ツタツタ"ビートの上を這いずり回る発狂寸前のボーカル、清春の専売特許であり伝家の宝刀でもあるシャウトにビブラートをかけた"ビャイヤイヤイヤイ"など、細部に至るまで多くのフォロワーたちに伝統芸として継承され、様式のひとつを作り上げた歴史的名曲なのだ。

ラストはDEAD END/Serafineを彷彿とさせる壮大なナンバー M10「亡骸を」。この曲は、清春が亡くなった祖母へ追悼の意を表した楽曲となっており、清春ソロでは「PHANTOM LOVER」としてセルフカバーされている。 

余談ではあるが、本作のキービジュアルにメンバーと共に写っているのは、GILLE' LOVESのボーカルLUCIFER LUSCIOUS Violenoueである。彼らがリスペクトを寄せていたアーティストだ。

また、ブックレットには歌詞を補完するように散文詩が加えられている。こういった表現方法もフォロワーたちへ大きな影響を与えた。


発売後、「亡骸を...」は前代未聞のインディーズチャート2ヶ月連続首位を記録する大ヒットとなる。これは本作がいかに革新的でセンセーショナルな作品であったかを物語る出来事のひとつである。

もしあなたがヴィジュアル系というカルチャー/ムーブメントの深淵に触れたいと思うのならば、この作品は必ず手に取るべき聖典のひとつであろう。ヴィジュアル系シーンの根底に脈々と流れる黒夢の遺伝子を、黒夢がレジェンドと呼ばれるその所以を、きっと感じ取る事が出来るはずだ。

TEXT:管理人

2018年4月18日


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