オールドスクールヴィジュアル名盤解放地帯 #7「黒夢 - FAKE STAR〜I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER〜」

クラシックな名盤をレビューしているオールドスクールヴィジュアル名盤解放地帯。今回は黒夢が1996年にリリースしたアルバム「FAKE STAR〜I'M JUST A JAPANESE FAKE ROCKER〜」をレビューする。収録曲は、M01「Noise Low3」 M02「FAKE STAR」 M03「BEAMS (FAKE STAR VERSION)」 M04「BARTER」M05「SE Ⅰ“SUNNY’S VOICE”」 M06「SEE YOU (FAKE STAR VERSION)」 M07「REASON OF MY SELF」 M08「SE Ⅱ」 M09「SEX SYMBOL」 M10「Cool Girl」 M11「S.O.S」M12「SE Ⅲ」M13「HYSTERIA’S」M14「ピストル(FAKE STAR VERSION)」M15「夢」M16「「H・L・M」is ORIGINAL」M17「SE Ⅳ“EITHER SIDE”」の全17曲。そうる透、是永巧一、佐久間正英など錚々たるミュージシャンが参加している。メジャー3rdアルバムで、通算4作目。オリコンチャート1位を記録した。


底辺<UNDER>に流れる精神は永久に変わらない

振り返れば黒夢とは、ヴィジュアル系の根源であるパンク精神/カウンター精神を常に感じさせるバンドであった。当時主流だった英語やフランス語などを使用したバンド名は使用せず、真逆を行く漢字のバンド名を採用した。また音楽性も当時の王道とは真逆で"よりダーク"で"よりコア"なスタイルを追求したものであった。そういったアティチュードはメジャーデビュー後も変わらなかった。「メジャーに行っても俺たちは変わらない」と言いながら、どんどんポップになっていくバンドが多かった中、黒夢は堂々と「売れたい」と言い放った。ブレイクのきっかけとなったシングル「BEAMS」リリース時には日焼けにパーマ姿というサーファーのようなルックスで、ヴィジュアル系バンドのタブーを嘲笑ってみせた。清春は当時よくインタビューで「他のバンドの逆を行きたい」「周りと同じことをやりたくない、変わり続けたい」と話していた。彼らに対して「言う事も音楽性もコロコロ変わる」といった声もあるが、それは黒夢の表面上を雑に捉えただけの評価であるのは言うまでもないだろう。

最新、最低、極上のニセモノ。

本作はいわゆる"ポップ期"から"パンク期"に移行する過度期にリリースされた作品で、ポップ期の延長線上にある楽曲と、これからの黒夢を予感させるパンク精神を剥き出しにした攻撃的な楽曲が共存している。本作のオープニングを飾るM01「Noise Low3」は人時作曲のSE的な楽曲。人時のベースのみで構成されていて11本ものベースを重ねている。タイトルトラックであるM02「FAKE STAR」 は本作における最重要曲。この作品がリリースされた1996年、ヴィジュアル系シーン出身のバンドに対する差別はまだまだ根強かった。一線で活躍する彼らがそういった差別を真っ向から受けていた事は想像に容易い。当時のロックシーンでは、大きな力を持った音楽雑誌が推すバンドが"ホンモノ"と呼ばれ、そこに載せてもらえないバンドは"ニセモノ"であるとされていた。「洋楽至上主義のようなバンドがホンモノなら僕らはニセモノでいい」「事務所パワーで売れているヴィジュアル小僧には負けない」といったリリース時の発言からもわかるように「FAKE STAR」はそういったある種プロパガンダ的に広まった価値観や音楽シーンに蔓延る悪しき風習/ギミックに対して"NO!"を叩きつけたパンクナンバーなのである。自ら"I'm a FAKE"と高らかに宣言した暴力的な開き直りと、パンキッシュなロックンロールにのった清春の巻き舌ヴォーカルが鳥肌級にかっこいい。後の活動においても重要なポジションを占める曲。続くヒットシングルM03「BEAMS (FAKE STAR VERSION)」 はヴォーカルがニューテイクとなるFAKE STAR VERSION。M04「BARTER」は「FAKE STAR」につぐ本作の重要曲。パンキッシュな楽曲にのる、嘘やギミックで塗り固められた音楽産業、芸能チックになっていくロック業界を強烈に皮肉った歌詞が痛快。この曲に代表されるように、本作はバンドサウンドとシーケンス、サンプリング音が混ざり合ったスタイルをメインとしていて、本人たち曰く黒夢流のミクスチャー。ただ、同期ものはフェイク感の演出や歌詞と同じように皮肉的な意味合いを込めたものだという。SEを挟みM06「SEE YOU (FAKE STAR VERSION)」は新たにコーラスパートが追加されたFAKE STAR VERSIONで、こちらもヒットシングル。清春の思想を詞にしたというM07「REASON OF MY SELF」 はレゲエ調のナンバー。歌詞が素晴らしく"近道する人より僕は進んでたい"という一節が黒夢というバンドのアティチュードを象徴している。SE Ⅱを挟み M09「SEX SYMBOL」は、後のSADSや清春ソロにも通ずるグラマラスなロックンロール。清春がリスペクトするジュリー(沢田研二)を意識して歌ったという M10「Cool Girl」は黒夢流のバッドボイーズロックで、こちらも後のSADSを彷彿とさせる。パンキッシュでフェイク感たっぷりの同期が炸裂した M11「S.O.S」はSMをテーマにして作られた。M13「HYSTERIA’S」もSMをテーマにして作られたミドルナンバー。先行シングルでリリースされたM14「ピストル(FAKE STAR VERSION)」はNINE INCH NAILS風のインダストリアル的なパートが新たに挿入されたFAKE STAR VERSION。オマージュではなくあくまでパロディー。またこの曲には当時流行していたクラブミュージック的なアレンジが施されていて、そういったジャンルに対してアンチテーゼの意味を込めたという。M15「夢」は、前作のアルバム「feminism」に収録された「至上のゆりかご」の続編だという。歌詞カードに記載されていないが初期からのファンには衝撃的なフレーズが歌われている。実質的な本作ラストナンバーとなるM16「「H・L・M」is ORIGINAL」はファンお馴染みの"清春語"で歌われた楽曲。「H・L・M」とは「Habit 歌いグセ・Lyric 歌詞・Melody メロディー」の頭文字で、それらは清春の唯一無二の個性、自分がオリジナルであるという意味が込められている。この曲を聴くと清春が日本においてセルフボースト系の曲を歌う事が出来る、またそれがハマってしまう数少ないロックスターの一人である事を再認識させれる。M17「SE Ⅳ“EITHER SIDE”」は、後のシングル候補曲を予告編的にSEとして挿入したもの。ライブテイクが会場限定配布CDとして無料配布されたが正式に音源化はされず、俳優の高橋克典に楽曲提供された。

誰かが仕掛けた"ホンモノ"を疑え

本作リリース後に行われたライブツアー"1996 FAKE STAR'S CIRCUIT"のファイナルにあたる横浜アリーナ公演に私も足を運んだ。この日のライブは私が見た黒夢のステージの中でトップクラスのものだった。青く染めたパンクヘアに、THE STREET SLIDERSのようなサイケファッションや当時流行していたソフトパンクファッションをミックスさせたスタイルで登場した清春の鬼気迫るようなオーラは凄まじいものがあった。フロアの熱量も彼らのパフォーマンスに呼応するように限界値を超えた。指定席のライブにもかかわらずファンはステージに詰めかけた、下着姿になる女性ファン、警備スタッフとケンカする男性ファン、暴動ともいえるその光景は古き良き時代のライブハウスを思い起こさせるものだった。そう、彼らはアリーナクラスの会場をライブハウスに変えたのだ。予定外のアンコールに応えた彼らは感謝の言葉を述べるとともに「満員じゃないけどさ」「デカい会場はクソくらえ」といった得意の皮肉を披露した。だがその皮肉は私にはとても誠実なものに思えた。実力のないバンドのライブ招待券をばら撒き、大規模の会場を満員にしているように見せかけ、人気を偽装し力尽くでバンドを売り込む。良く言えばブランディング、黒夢流に皮肉を込めて言えば"NICE TRICK"。青田刈りしたバンドを嘘で塗りたくり愛聴者を騙し込む。こういった手法は彼らのバックボーンであるヴィジュアル系シーンでも横行していた。──商業的になりすぎたヴィジュアル系シーンに少しうんざりしていた私は、この日のステージで黒夢というバンドが"リアル"である事を改めて確信した。

TEXT:管理人

2020.05.05


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