テレビでは教えてくれないヴィジュアル系のルーツに迫る

ヴィジュアル系のルーツと聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ビートロックからの流れを汲んでいる、ポジパン(ポジティブ・パンク)やトランス系バンドからの流れを汲んでいる、ジャパメタ(ジャパニーズ・メタル)からの流れを汲んでいる、各々に思い浮かべるルーツがあるだろう。ヴィジュアル系は究極のクロスオーバーであり、様々なジャンルの系譜が入り乱れた複雑なバックグラウンドを持つ、どれも正解と言えるだろう。その中で、とりわけよく耳にするのは「ヴィジュアル系はジャパメタから派生した」ではないだろうか。確かに影響を公言するバンド、メタル要素を持ったバンドが多く見受けられる。しかし、本当にそうなのだろうか? そのモヤモヤを解消すべく、ここで"テレビでは教えてくれないヴィジュアル系のルーツ"に迫ってみたいと思う。

東のX、西のCOLOR。90年代のヴィジュアル系に興味がある人間ならば、よく耳にしているだろう。YOSHIKI率いるエクスタシーレコード、DYNAMITE TOMMY率いるフリーウィル。ヴィジュアル系シーンを築いた、両者を象徴する言葉だ。その最重要人物である両者を起点に見ると、ヴィジュアル系シーンはジャパコア(ジャパニーズ・ハードコア)からの影響を大きく受けていることが見えてくる。ヴィジュアル系創成期、当時の既存の価値観ではカテゴライズする事が出来なかったレジェンドバンドたちは、イロモノとして軽視され「あんなものは邪道だ、ヘヴィメタルではない」「ミーハーで売れ線でロックとは程遠い」と蔑まされていた。だが、ヴィジュアル系は既成文化の権威に対するカウンターだった。「もっと派手に過激に人と違った事がやりたい」「いつか認めさせてやる」といったカウンター精神を持ち本質的な意味での反体制を掲げていた。それがジャパコアの精神性とリンクしたのだろう、バンド界のはみだしものだったヴィジュアル系レジェンドたちは、ジャパコアシーンとの友好関係を築いていく。その関係性は、エクスタシーレコードやフリーウィルなどからリリースされた作品のサンクスリスト、コーラス参加陣などに見る事ができる。また、YOSHIKIが参加したL・O・Xの作品でも、ジャパコアシーンとの関係性を確認する事ができる。

音楽性やヴィジュアル面ではどうだったのだろうか? DYNAMITE TOMMY率いるCOLORの音楽性は、メロコアの先駆けとも呼べるようなハードコア/パンクを基盤にした独自のはちゃめちゃパンクで、ヴィジュアルもハードコア/パンク、グラムメタル、日本のヤンキースタイルをクロスオーバーさせたものだった。反逆的で暴力性を帯びた彼らのスタイルにはジャパコアに通じるものがあった。YOSHIKI率いるXの音楽性も、多大な影響を受けたと公言するガスタンクに続くメタルコアの先駆けであった。YOSHIKIのプレイスタイルはD-BEATと呼ばれるスタイルと近似したもので、ハードコアパンクからの影響を強く感じさせるものだった。あの破壊衝動全開のドラムパフォーマンスも、間違いなくジャパコアが基盤にあるだろう。また"爆発寸前GIG"のようなネーミングセンス、CO2ボンベを使ったパフォーマンスなどからも、ジャパコアからの影響が伺える。現にYOSHIKIはガーゼやギズムのギグに通いハードコア/パンクに傾倒していた事を公言していて、自身のエクスタシーレコードからPOISON(後のPOISON ARTS)、THE ZOLGEの作品をリリースしている。こういった影響はXとCOLOR以外のバンドも例外ではない。ジャパメタの系譜として語られる創成期ヴィジュアル系バンドの多くが、ハードコア/パンクの要素を持っている。それは音楽性だけではなくヴィジュアル面にも言えることで、現在では古典的なヴィジュアル系スタイルの様式美となったカラスマスクや腕章などもハードコア/パンクからの影響と言えるだろう。加えて、90年代ヴィジュアル系シーンを語るときにヤンキー文化や体育会系の縦社会だという事が触れられるが、こういった要素もジャパコアシーンから引き継いだものだと言えるだろう。そして、YOSHIKIとDYNAMITE TOMMYが率いていたエクスタシーレコードとフリーウィルも、パンクのDIY(Do It Yourself)の精神をしっかりと受け継いだインディーズレーベルであった。

X JAPANはメタルの系譜として語れる事が多い。だがYOSHIKIも公言しているようにX JAPANの精神性はメタルとは違いハードコア/パンクの精神性に近いものだった。当時のメタルシーンは彼らに批判的であったし、また彼らも当時のメタルシーンに対してアンチテーゼともとれる発言を多く残していた。「ヘヴィメタルって呼ばれるのは嬉しくない。かっこ悪い感じしない?あのマニアックな空気は好きじゃない」といったYOSHIKIの発言から見るに、創成期ヴィジュアル系の持つ気合いイズムは、メタルよりジャパコアの持つ漢気とリンクしたのではないだろうか。一方、DYNAMITE TOMMYも「メタルと呼ばれるならイロモノでいい」「メタルから影響を受けるものはなかった」と語っており、自身のヴィジュアルについてはパンクのモヒカンを超えるインパクトを目指したという。蛇足だが、創成期ヴィジュアル系レジェンドたちが「ちゃんと演奏しろよ」「あんなの音楽じゃない」などとイチャモンをつけてきたジャパメタバンドに、お仕置きしたという都市伝説も存在する。 そして、SUGIZO、清春、Mana(Moi dix Mois,MALICE MIZER)といったレジェンドたちもハードコア/パンクからの影響を公言しているので、いくつか紹介する。 SUGIZOはハードコア/パンクからの影響を公言し、LUNA SEAはパンク寄りのバンドだと発言していて、メタルの美学に対しては否定的な発言を残している。聴いてもらえればわかるが、初期のLUNA SEAはハードコア/パンクの要素が強い。清春は「DEAD ENDは他のジャパメタと違う気がした。MORRIEさんはポジパンやハードコア/パンクの要素があってかっこよかった」「FLATBACKERもハードコア/パンクの要素があって好きだった」と語っていて、自身のバンドである黒夢にはハードコア/パンクからの影響を色濃く反映させている。黒夢結成時のコンセプトについても「ダークでハードだけどハードコア/パンク寄りのメタル臭くないもの」と語っている。また、MALICE MIZERのMana様もパンクスであった事を公言していて、「メタルの音楽は好きだけど、胸毛とかは許せなかった」という発言をしている。スペースの都合上割愛するが、この他にもハードコア/パンクとヴィジュアル系の親和性を物語る人脈や逸話は、まだまだ存在する。

これらの事からヴィジュアル系は、当時権威的だったメタルシーンに対する反骨心から生まれたカウンターカルチャーであったと言える。またその精神は、根底の部分でハードコア/パンクに近いものであったと推測できる。もちろん冒頭で述べたように、ヴィジュアル系は究極のクロスオーバーであり、多種多様な音楽性を持ったバンドが混在している。よって音楽的には、パンクから派生したメタルから派生したと一概に言うことはできない。だがヴィジュアル系の核となるものは一体どこから生まれたのか? ──ヴィジュアル系の語源とされる、Xが掲げたPSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK。ヴィジュアル系を語る上で決して外すことが出来ない"VIOLENCE"の要素は、間違いないくハードコアパンクシーンから引き継いだものであり、ヴィジュアル系誕生のきっかけとなったその精神性もまた同じである。そう、ヴィジュアル系シーンはジャパコアシーンから派生したものなのだ。


TEXT:管理人

2018年3月19日


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